二毛作
たまに駅構内のコーヒーショップに入る。
コーヒーショップといっても、この店は昼と夜との顔が異なるいわゆる『二毛作』業態。昼はコーヒーと簡単なランチ、夜はガラっと雰囲気を変えてアルコールを出す。もちろん昼と夜とではメニューも違うし、店のスタッフもユニフォームも異なる。
この二毛作というのは、時間帯マーケティングという発想で、売上げのピークを2つ作るために考え出されたもの。今から30年ほど前にこれをシステム化して全国展開したのは当時勤めていた会社の先輩だが、実はボクも今から15年ほど前に、この二毛作業態を真剣に研究していたことがある。
その当時ボクは、ある中堅ハンバーガーチェーンに出向していた。店舗数80店、売上げ100億円、借入金90億円、正社員200名。何期か赤字決算が続いていて、ボクが派遣されたときには累積赤字が10億円に膨れ上がっていた。
まさに会社存亡の危機で、株主はこの事業を再建できるかどうかを見極めるためにボクを送りこんだ。資本の論理とは非情なもので、親会社は傷が浅いうちに会社ごと切り捨てるのも止むなしと考えていたのである。
社員たちと、口角泡を飛ばして連日夜中まで議論をした。そしてボクはいつの間にか、彼らやその家族のために、自らが盾になってでもこの会社を守ろうと思うようになっていた。
生き残るためには、何としてでも既存店の売上げを伸ばさなければならない。
一般的な飲食店は昼と夜の売上げ割合は3対7くらいだが、ハンバーガーショップは午後2時までに売上げの6割を稼いでしまう。逆にその後が極端に弱かった。アイドルタイムを活性化するために、デザートメニューを充実させたり、夜のメニューを投入したりしてみたが、思うような成果は上がらなかった。
そんなときに、思いついたのが二毛作業態。都心立地の店舗なら、夕方から上手に顔を変えたら、フライドチキンやピザを武器にして、ビールやワインが売れるのではないかと考えたのである。
プロのデザイナーも入れてプロジェクトチームを作った。看板や内装も落ち着いた大人向けにしよう。夕方からあちこちの盛り場を回った。そしてようやくプランができて、親会社に了解を取り付けに行ったら、「そんな中途半端なことをしている場合か!」と一喝されてしまう。
帰りの地下鉄で、悔しくて涙が出そうになった。ちょうど今ごろの季節で、街は華やかなクリスマスモード一色。
そしてあれから15年の歳月が流れた。
つい先日、次女に聞いた話だが、近ごろ学校の社会科では二毛作という言葉を教えないらしい。国の減反政策も一因だが、手間の割に収穫が少ないために、温暖な高知県あたりでも今では二毛作はほとんどないという。
労多くしてナンとやら。やっぱり中途半端はアカンのか… あのとき怒鳴られた役員の顔がふと浮かんだ。
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